「咲月ちゃん、お疲れ様!ツリーの飾り付け、一緒にやろうよ!」


お昼過ぎ、洗濯物を取り込んでから玄関へと回ったら、そこにはオーナメントの箱を沢山抱えてふらふらと歩いてる真人様の姿があった。


「うわっ!」
「だ、大丈夫ですか!」


咄嗟に駆け寄って、ずり落ちた箱を受け止める。


「ナイスキャッチ!」


箱の横から真人様が満面の笑みを浮かべた。


「あの…私達がやりますので…」
「あっ!そう言う事言っちゃう?ダメダメ!ご主人様を仲間はずれにする様な事したら。」


な、仲間…。
一介のメイドである私をそのようなくくりにするとは…。


あまりにも予想外のお言葉に驚いている私の手から、真人様は箱をフワリと持ち上げられた。


「俺さ、瑞稀が帰って来た時に喜ぶ顔が見たいの。それだけ。咲月ちゃんだって同じでしょ?瑞稀の為に頑張ってる。」


それはもちろん……


「……はい。」


返事をしたら、満足気に微笑んだ真人様の右手が私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


…瑞稀様のみならず、真人様も。

ご主人様はメイドの頭を撫でるものなの?


でも、坂本さんを撫でてはいない…。
と、言うことは、私が瑞希様や真人様より歳が下のメイドだから?


まぁ…ご主人様達のする事だから。私には分からない事なのかもしれない。機会があったら、瑞稀様に聞いてみようかな。

けれど、それで瑞稀様が「じゃあやめる」と言ったら…それは寂しくて嫌かも。


「よし、じゃあ、飾り付けやっちゃおう!」


目の前で、真人様が腕まくりして箱を開ける。


…とにかく。
瑞稀様がここに帰って来て楽しそうに笑ってくれる様に、今は飾り付けを頑張ろう。


私も真人様につられて腕まくり。それを楽しそうに見た真人様は、「瑞稀、きっと喜ぶよ」とこの上なく優しい表情に見える。


瑞稀様の事を話す時の真人様の笑顔は、よりお日様みたいだな…。周りの空気が温かく変化する感じがして、心地が良い。

瑞稀様の事を本当に好きでいらっしゃるんだろうな。


本当に素敵なお兄様ですね…瑞稀様。








「瑞希さ、小さい頃ね…?」

「それでその時瑞希がさ…」


瑞希様と真人様の想い出話を沢山聞かせてもらいながら付けたオーナメントは、夕方には綺麗に全て飾られた。


「今年は本当に豪華ね!」
「本当ですね。」


途中から加わってくれた坂本さんともできばえに思わず微笑みあった。


「残るは瑞稀様のお部屋だけですね。」
「やっちゃおっか!この勢いでさ!」


確かに、真人様が飾られたら瑞稀様はお喜びになるのかも…
でもな…今日のお仕事がまだ残ってるし、圭介さんも用事で出掛けているから…勝手に事を進めて良いかもわからない。


「いいわよ?今日は瑞稀様はお食事はここでお召し上がりにならないそうだし、真人様お一人であれば、諸々は私の方でやっておくから、咲月ちゃん、真人様と飾り付け行ってらっしゃい?」

「勢いも大事よね、こういう事は!」と坂本さんは上機嫌で空箱を持ち去って行く。その姿に、真人様が、「へぇ。」と少し声をあげた。


「咲月ちゃん、凄いね!あの坂本さんにかなり気に入られてる!」


そう…なのかな?
坂本さん、最初からとても優しい人で、ずっと変わらないけどな…。

箱を集めて持ち上げたら、それを真人様がすかさず私から取る。「行こっか」と笑う優しい幼げな表情に瑞稀様が重なってキュウッと心が掴まれた。


…やっぱり兄弟だな。瑞稀様と雰囲気が似ている。


そんな風に思ったら、瑞稀様が急激に恋しくなった。


…今日は遅いのかな、瑞稀様。
どうしよう。昼間に会えたのにもう会いたくなっている。


ふぅと少し深く息を吐いた。


……違うよね。


きっと、さっき会ったから、会いたいんだよ、私は。


上田さんと並んだ瑞稀様が脳裏を掠めてまた気持ちに靄がかかる。


やっぱり、外までお見送りしようなんて思わなければ良かったかな、あの時。そうしたら、上田さんとも会わずに済んだわけだし。