瑞稀様のお部屋で一人、もみの木に、作ったばかりのオーナメントを取り付ける。


瑞稀様…お兄様との再会を楽しんでいらっしゃるかな。


「ちゃんとサンタの髭、付けました。」


そう呟いた途端に後ろから温もりに包まれた。


瑞稀…様。

そうか、ドアが開けっ放しだったから…気配に気付けなかったのか。少し目線を送った先のドアはいつの間にか閉まっていて。瑞希様の事で頭がいっぱいで注意力に欠けて居たのだと少しだけ恥ずかしくなった。


…未熟だな、私。


もっと坂本さんや圭介さんの様に広い視野を持ち、常に気を配らなくては。


そんな私の肩に、瑞稀様の顎が乗り重みをそこに感じる。


「髭はついてるけどさ。これ細すぎない?サンタってさ、こう…恰幅がいいって印象があんだけど。」


…確かに。
そこか、違和感は。


「あ、明日こそ…」


私を覆う腕に力が入った。


「いいよ、明日も明後日もイマイチだって。毎日ちゃんと楽しみしてるからさ」
「は、はい…。」
「…ダメ?俺が毎日帰って来たら。」


肩を押されて正面に向けさせられ、目に飛び込んで来た瑞稀様の表情にハッとする。


また…だ。
耳に届いていた声色はいつも通り、はっきりとしたしゃべり方だったのに。


“私の顔色をうかがう様な表情“


無性に寂しさと不安が込み上げて瑞稀様にどうしても自ら触れたいと言う衝動が抑えられなくなった。


…お願いです。
私にそんな表情をしないでください。
顔色など、伺わずとも、私は瑞稀様が大好きです。


「私はずっと瑞稀様のお帰りを心待ちにしております。」


瑞稀様の頬を両掌で覆いそのまま顔を近づけて、自ら唇を重ねる。そのことで、瑞稀様の目が見開いて、その中の瞳が一瞬だけ揺らめいた気がした。


「…随分積極的だね。」


………えっ?


突然、瑞稀様が好戦的な笑顔に変化する。

抱き寄せられ、フワリと身体が持ち上がった。


「み、瑞稀様…いけません!」
「ああ、圭介ぶ?」
「げ、減量してますのでしばしお待ちを!…ってそういうことではなくて!」

私の動揺にご機嫌に笑いながら、私をベッドへと運び沈める瑞稀様。上から見下ろす瞳は、不安の色は消えていつもの澄んだ薄ブラウンが煌めいている。

「あ、あの…お出かけの時間は。」
「知らない。遅れるなら、咲月が誘惑したせいじゃない?」


ゆ、誘惑?!
どの辺が?!


目を見開いたら、ふわりと唇が塞がれる。

それから、角度を変えてまた。

優しく啄ばまれる様なキスに甘さを感じて、気持ちがふわふわと柔らかく満たされた。

瑞稀様はそんな私の髪に指を通しなでると、穏やかに微笑む。
それから「ほら、起きて」と私の腕を引っ張って起き上がらせ、そのまま腕を背中にまわし引き寄せ、おでこ同士をコツンとぶつけた。


「咲月…ありがとう。」


心地良さそうに目を細め、唇は綺麗に三日月を描いている。その柔らかな表情に私も笑顔になれたけれど…呟かれたその言葉が妙に引っかかった。


どうして…………『ありがとう』なのですか?


「行って来る。」と離れた身体が急に寒さを感じ、心許ない気持ちになる。


「お送り致します」


瑞稀様のお側にもう少しだけ居たくて、その少しうしろを追いかけ、玄関先ヘと出た。


止めてあった車を前に、圭介さんがどなたかと談笑している。

私達の姿に気が付くと、「また今度」と会釈をして一歩下がる圭介さん。


途端に顕になった、その人の全貌。膝丈のタイトスカートからスラリと伸びる綺麗な足、ゆるくまとめ、サイドに流れる柔らかそうな髪、スッと通った鼻筋に、大きな目に白い肌。

そして、女性らしいしなやかな体つき。


…凄く綺麗な人。


思わず目を見張って固まった私の頭をポンポンと瑞稀様の掌が撫でた。


「じゃあ、行って来るね。薮、あの暴走兄貴をくれぐれもよろしく。」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」


瑞希様が車に乗り込み、ドアをその女性が静かにが閉める。その所作を見守っていたら、振り向いた彼女と目線が交わった。


そこから数秒、そのまま私をジッと見ている。


…何…だろう。


小首を傾げたら、ハッとして、綺麗な笑顔に変わるその人は丁寧におじぎをし、反対側に周り、車へと乗り込んだ。



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