「今日、瑞稀様がお帰りになる事になったわね。」


瑞稀様がお出掛けになられた後、玄関にモップをかけ始めたら坂本さんが現れた。


「最近、瑞稀様、お帰りになるとツリーを見て下さってて嬉しいわ。『坂本さん、あのトナカイ懐かしい!』って喜んで下さって。本当に楽しいわ、今年は!」


優しく笑うその表情が少しだけ寂しさを纏う。


「あんなに楽しそうにしている瑞稀様を見るの、いつぶりかしら。真人様がいらっしゃった時はあんな感じの表情をよくなさってたけれど…」
「真人…様?」
「薮くんから聞いてない?この谷村家のご長男よ。」


そうか…お兄様がいらっしゃる事は聞いていたけれど。


「12月24日生まれなのよ、真人様は。」
「凄いイブに生まれるなんて!」


驚いた私に坂本さんがニッコリ笑った。


「何だか真人様、皆の前にそろそろひょっこり顔を出しそうね。」

瑞稀様のお兄様…どの様な方なのだろう。
今は長期不在にしていらっしゃると伺ってはいるけれど、いつかお会い出来たらいいな…。


玄関掃除を終えて、モップとバケツを仕舞いに外へと出たら真っ青な高い空にある太陽が眩しい程の光を降り注いでた。


……良いお天気。


陽の光に目を細めながら向かった裏の倉庫。側にある裏出口のブザーが鳴った。


…波田さんかな?
「足りない食材を買い足してくる」とさっき出掛けて行ったから。


裏出口の鍵である、暗証番号は防犯上、一ヶ月に一度変更される。もしかしたら、暗証番号を忘れてしまったのかもしれないと近づいて行って覗き穴からからのぞいたら、向こうからも覗いていて、黒めがちな目が沢山ぱちくりしていた。


明らかに…波田さんの切れ長の目ではない、その目。


「うわっ!」
「きゃあっ!」


思わず驚き叫び、後ろによろめいた所を誰かにキャッチされる。


「涼太さん!」
「どうした?大丈夫?」
「へ、変な人…のぞ、覗いてます!不審者です!」
「はっ?!」


今度は涼太さんが覗き窓からから睨む様に覗く。


「恐いって!そんなに睨まれたら!」


向こうから少し鼻にかかったような特徴的な声が聞こえて来た。


「うそ、真人?!マジで?!」


涼太さんが慌てて戸口を開ける。


「もうー!不審者ってなんだよ、不審者って。」


そこをくぐって入って来たその人は声だけではなく、笑いかたも特徴的で。快活な笑顔が先程まで見上げていた、お日様を思わせた。