正直言って、聞き出そうって横しまな心内だったんだと思う。


『誰と会ってたんだ?』って…それは『オトコだった』んじゃないかって。


直に聞くのも変な話だから、まわりクドく色々御託並べてたら、咲月はネクタイを結ぶ手が止まって、明らかに憂鬱そうな表情に変わった。


…そりゃそうだよな。
この屋敷に従事しているのは仕事なのに、休日の過ごし方まで色々言われたら鬱陶しいに決まっている。

なんて思ってみても、余計に言い訳がましい事しか口から出て来なくて。

黙り込んで下向いたままになった咲月の顔を「これ、嫌がられたな」と覗き込んだら…その瞳からポタリと涙が落ちた。

その表情が嫌悪感を露わにしているなら理解できた。
けれど。

どうして…涙?

このタイミングで泣かれるなんて予想してなかったから。

…あらぬ感情を抱いた。

“その涙、何の為?会いに行った先の『誰か(オトコ)』を思い出してんの?俺と居るのに?”


それは、明らかに主人としてではない感情で。



「も、申し訳ありません…」


俺の反応に慌てて背を向ける咲月に、“心ん中に自分の存在を植え付けてやれ”って身勝手極まりない衝動に駆り立てられ、その身体を背中から包み込んでいた。


「…俺の話のどこにそんなに泣く要素があったわけ?」


みるみる赤く染まってく咲月の耳。回した腕に力を込めて、少しだけ唇をそこにつけたら身体が少し反応して強ばった。


「も、申し訳・・・ございません。」
「謝んなって何度言えばわかんだよ。」


肩を少し乱暴に押して自分の方へ無理矢理向けたら。


「言えよ、ちゃんと。」
「…っ」

真っ赤になって困り果ててる咲月の頬を包み込んで目尻に残ってた雫を親指で拭う。


「言わないなら、このままキスする。」


半ば脅し、半ば本気
そんな俺の言葉に潤い残るその目が見開き揺らめいた。