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私…恋しいからって、幻が見え…てる?
「随分、爽やかな所に住んでんね、咲月さん。」
ほら、視界がぼやけて…鮮明じゃないし…
「いや~…参った!
徹への引き継ぎが思いのほか時間かかってさ…あいつ、意外と抜けてんから、大変なんだよ。あの上田が手間取るってさ…
しかも、母さんは、『中途半端に会いに行くことは彼女の気持ちがまた揺らいで辛い想いをするかもしれません。それだけは絶対に許しません。あなたが迎えに行く事が出来るという状態になってから自分で探して行きなさい。』とかって咲月の居場所を中々教えてくれないし。
おかげで2年も経っちゃったよ。
まあ…咲月的にはここでのんびり暮らせたみたいだから、良かったのかなとも思うけど。」
近づいて来た瑞稀様が口角をキュっとあげる。
「社長辞めて、谷村家を出て来た。咲月さんに養って貰おうかと思ってさ。」
う、うそ…結局辞め…。
「あ、あの…」
「あの会社はね、元々、次は徹が受け継ぐって事にしてたんだよ、俺が社長になった時の契約で。俺はそれまでの『繋ぎ』兼、今後のための修行。」
…え?
目を見開いたらムギュって頬を摘まれる。
その感触は、確かに瑞稀様のあの丸い指先の感触で。そこに存在があると頰が喜びに満ちていく。
「俺と徹はずっと交代のタイミングを狙ってた。
俺が谷村家をいつか出たいって思ってるのも徹は知っていたから。
だけど、父さんはそこまでは知らなかった。
だから、交代したタイミングで俺を会長代理のポストに置こうって考えてたんだけどね。
そこは、ずっと断るつもりでいたから。
じいさんから父さんに引き継いだ時とは違って、今時世襲は流行んないし、逆にイメージダウンに繋がる事もあるからね。
やっぱ、会長になるのは、一度は自らの手で成功した人でないと。」
そ、そうだったんだ…。
「ったく、だから『信じろ』つったんだよ。
谷村家の信用を落とすとか、突然辞めて大騒ぎになるとか、そんなくだらないヘマはしませんよ、俺は。
小夜だって、ちゃんと納得して家に戻ったしね。まあ、今は留学中でアメリカに居るけど。」
う、うそ…小夜子さんが諦めた…?
「…う~っ」
何か喋りたいのに、頬を掴まれて喋れなくて唸ったら、その指が外れて、代わりにグイッと乱暴に腰を引寄せられた。
「…俺を誰だと思ってんだよ。」
間近に見る、得意げに口角をキュッとあげるその表情。
それは、ずっと、ずっと…夢にまでみた、大好きな…笑顔で。
ぼやけた視界がどうしようもなく焦れったくて。
ちゃんと…瑞稀様を実感したくて。
そのまま自らギュウッて胸元に顔を埋めてくっついた。
ああ…幻なんかじゃない。
求めて止まなかった、1年ぶりの大好きな温もりだ。
「咲月が俺の部屋に来た時、本当の事言うって選択肢もあったと思うんだけどさ。咲月はあの時そこじゃなかったから、冷静さを失ってるポイントが。
小夜に話した直後で、小夜がどう動くか、その動きとあなたの反応に合わせてこっちも動くつもりで、何パターンも考えてたんだけどね。
借金の話も咲月の中のわだかまりを無理にでも解決しないとって思ってたから。
ちょっと智樹さんが間に合わなかったけど、ホテル出た後すぐに会えたみたいだから、まあ、結果オーライだったでしょ、そこは。
予定外はやっぱ、引き継ぎだよね…ほんと、徹、時間かかり過ぎ。いや、徹っつーより、専任秘書が悪いのか、あれは。
上田も困ってたし。」
固く抱き締めてくれてる腕と頭を優しく撫でてくれる掌に余計に瑞稀様の存在が嘘じゃないと実感させてくれる。
身体中がその温もりを『嬉しい』と受け入れて止めどなく、涙が溢れて来た。
この2年間…何度も、何度も、瑞稀様の夢を見た。
頭を撫でてくれて、優しく名前を呼んでくれて、そっと抱き締めてくれる。
けれど、朝起きれば全部消えていて寂しさで押しつぶされそうになった日もあった。
でも、今ここにあるのは現実で
夢…じゃない。
「咲月…ごめんね?辛い想いさせて。」
くぐもって聞こえるそんな言葉に一生懸命首を横に振った。
「じゃあ…言ってくれる?『お帰り』って」
「っ…」
片頬を包んで、目尻を拭ってくれる柔らかい掌とその指先。
ああ…瑞稀様だ。
大好きな
大好きな
大好きな人。
「お…帰り…なさい。」
再びこみ上げて来たものに耐えきれなくて再びきつく抱きついたら、「ただいま」と柔らかい言葉が耳元でして、また涙が溢れて来た。
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私…恋しいからって、幻が見え…てる?
「随分、爽やかな所に住んでんね、咲月さん。」
ほら、視界がぼやけて…鮮明じゃないし…
「いや~…参った!
徹への引き継ぎが思いのほか時間かかってさ…あいつ、意外と抜けてんから、大変なんだよ。あの上田が手間取るってさ…
しかも、母さんは、『中途半端に会いに行くことは彼女の気持ちがまた揺らいで辛い想いをするかもしれません。それだけは絶対に許しません。あなたが迎えに行く事が出来るという状態になってから自分で探して行きなさい。』とかって咲月の居場所を中々教えてくれないし。
おかげで2年も経っちゃったよ。
まあ…咲月的にはここでのんびり暮らせたみたいだから、良かったのかなとも思うけど。」
近づいて来た瑞稀様が口角をキュっとあげる。
「社長辞めて、谷村家を出て来た。咲月さんに養って貰おうかと思ってさ。」
う、うそ…結局辞め…。
「あ、あの…」
「あの会社はね、元々、次は徹が受け継ぐって事にしてたんだよ、俺が社長になった時の契約で。俺はそれまでの『繋ぎ』兼、今後のための修行。」
…え?
目を見開いたらムギュって頬を摘まれる。
その感触は、確かに瑞稀様のあの丸い指先の感触で。そこに存在があると頰が喜びに満ちていく。
「俺と徹はずっと交代のタイミングを狙ってた。
俺が谷村家をいつか出たいって思ってるのも徹は知っていたから。
だけど、父さんはそこまでは知らなかった。
だから、交代したタイミングで俺を会長代理のポストに置こうって考えてたんだけどね。
そこは、ずっと断るつもりでいたから。
じいさんから父さんに引き継いだ時とは違って、今時世襲は流行んないし、逆にイメージダウンに繋がる事もあるからね。
やっぱ、会長になるのは、一度は自らの手で成功した人でないと。」
そ、そうだったんだ…。
「ったく、だから『信じろ』つったんだよ。
谷村家の信用を落とすとか、突然辞めて大騒ぎになるとか、そんなくだらないヘマはしませんよ、俺は。
小夜だって、ちゃんと納得して家に戻ったしね。まあ、今は留学中でアメリカに居るけど。」
う、うそ…小夜子さんが諦めた…?
「…う~っ」
何か喋りたいのに、頬を掴まれて喋れなくて唸ったら、その指が外れて、代わりにグイッと乱暴に腰を引寄せられた。
「…俺を誰だと思ってんだよ。」
間近に見る、得意げに口角をキュッとあげるその表情。
それは、ずっと、ずっと…夢にまでみた、大好きな…笑顔で。
ぼやけた視界がどうしようもなく焦れったくて。
ちゃんと…瑞稀様を実感したくて。
そのまま自らギュウッて胸元に顔を埋めてくっついた。
ああ…幻なんかじゃない。
求めて止まなかった、1年ぶりの大好きな温もりだ。
「咲月が俺の部屋に来た時、本当の事言うって選択肢もあったと思うんだけどさ。咲月はあの時そこじゃなかったから、冷静さを失ってるポイントが。
小夜に話した直後で、小夜がどう動くか、その動きとあなたの反応に合わせてこっちも動くつもりで、何パターンも考えてたんだけどね。
借金の話も咲月の中のわだかまりを無理にでも解決しないとって思ってたから。
ちょっと智樹さんが間に合わなかったけど、ホテル出た後すぐに会えたみたいだから、まあ、結果オーライだったでしょ、そこは。
予定外はやっぱ、引き継ぎだよね…ほんと、徹、時間かかり過ぎ。いや、徹っつーより、専任秘書が悪いのか、あれは。
上田も困ってたし。」
固く抱き締めてくれてる腕と頭を優しく撫でてくれる掌に余計に瑞稀様の存在が嘘じゃないと実感させてくれる。
身体中がその温もりを『嬉しい』と受け入れて止めどなく、涙が溢れて来た。
この2年間…何度も、何度も、瑞稀様の夢を見た。
頭を撫でてくれて、優しく名前を呼んでくれて、そっと抱き締めてくれる。
けれど、朝起きれば全部消えていて寂しさで押しつぶされそうになった日もあった。
でも、今ここにあるのは現実で
夢…じゃない。
「咲月…ごめんね?辛い想いさせて。」
くぐもって聞こえるそんな言葉に一生懸命首を横に振った。
「じゃあ…言ってくれる?『お帰り』って」
「っ…」
片頬を包んで、目尻を拭ってくれる柔らかい掌とその指先。
ああ…瑞稀様だ。
大好きな
大好きな
大好きな人。
「お…帰り…なさい。」
再びこみ上げて来たものに耐えきれなくて再びきつく抱きついたら、「ただいま」と柔らかい言葉が耳元でして、また涙が溢れて来た。
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