レストランの個室を出て、庭先に小夜と二人で座る。



「…懐かしいね、ここに二人で座るのも。小学校以来かな…。」



先に言葉を紡ぎ出したのは小夜だった。


「瑞稀はさ、私が、ベソかいてると絶対となりに居るの。で、『泣き虫小夜さんまたですか?』って頭撫でてさ…。」


瞳からこぼれ落ちて来る雫がポタリ、ポタリ…とスカートの裾をぬらしてく



「…自分だって充分寂しかったくせにさ。」

「そうでもないよ、俺は。真人が居たし、小夜がよく泣くから必死で、寂しがってる暇なんてなかったから。」


空を仰いでそう答えた俺を少し見ると小夜も空を見上げた。


「…強がり。」

「お互い様でしょ。」

「まあね…。ねえ、瑞稀。」

「ん?」

「キスして。そしたら全部終わりにしてあげる。」



いつも見て来た、少し寂しそうな笑顔。これを満面の笑みに変えたくて、いっつも必死だった、あの頃の俺。

…甘かったよな、自分に。

本当に小夜を支えるって事がどう言う事か全く分かってなかった。
自分の側に居て欲しい、それだけで、小夜の背中を『大丈夫だよ』って押してあげる事をしなかった。


今は…そうする事が小夜の為だってわかる。


咲月が俺をそうやって送り出して、そして迎え入れてくれていたから。


「…残念だけど、俺のはあの人専用だから。」


笑って答えたら、ムッとその顔が分かり易く歪む。


「終わらせてあげるって言ってるのに。」

「うん、分かってるよ?でも、この前も言ったけど、俺の中で小夜の事はちゃんと終わりになってる。
小夜が終わりに出来ないなら、小夜なりに考えて欲しいかな、そんな条件云々じゃなく。」

「……。」


一瞬俯いたあと、ふうと溜息をついた小夜は「あ~あ」とまた空を仰いだ。


「そんなにいいかな、あの子。私にはよくわかんない。」

「分からなくて結構です。つか、わかってくれない方がいいかも。」

「何それ。」


俺の返事に小夜はクスリと楽しそうに笑う。


「や、あの人さ…モテるんだよ、意外と。だからさ、これ以上あの人の事好きな人が増えると俺的には困るわけ。」

「…瑞稀、その発言、誰かの前で言わない方がいいと思う。」

「ああ、ヒいた?」

「ヒくでしょ、いい大人がさ…何言ってるんだか。」


飽きれた様に小夜は立ち上がり、一度伸びをした。


「まあ、私は無一文になる瑞稀なんかに全く魅力感じないから、どうでもいいけど。土下座されたってお断り。
さっきお姉ちゃんも言ってたでしょ?私、モテるの。瑞稀なんかよりイイ男、簡単に捕まえられるもん。お父様もこれからは門前払いしないと言ってくれていたしね。」


俺に背を向けてから、一瞬振り返ったら満面の笑み。


「…またね、瑞稀。いつか、私を手放した事を後悔するよ、瑞稀は。」


そのまま、また背を向けると来た廊下を歩いて行った。



小夜、ありがとう…ずっと。
沢山、感謝してる。


誰がどう言おうと、俺は沢山、小夜に救われていたから。


今一度見上げた空にフウッて深く息を吐いたら、簡単に浮かんで来る咲月の笑顔。


咲月…

あなたが俺と出会って与えてくれたモノに、見合う事は何一つ出来なかったけれど

結局あなたを沢山傷つけて泣かせてしまったけれど


咲月がこの先もちゃんと笑って生きて行けるなら、それは俺の望む事だから。


……元気でいて、ずっと。