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『もう会いに来ちゃダメだよ』
そう言われて別れた、智樹さんとの再会。
どうしてあんなに頑に『会いに来るな』って言うんだろう…。
お屋敷にお伺いしてるわけでは無いから、あそこに行くなら良いかなと思ったのに。
青い空をのんびり移動する雲を見上げてたら、あの柔らかい笑顔と空気を思い出す。
智樹さん…私、また会いに行きます。
確かに智樹さんは私にとって元ご主人様だけど、それだけじゃないから。
北風がヒュウッと容赦なく何も巻いていない首もとを通り過ぎ行った。
「う~…さっむい。」
智樹さんに会った翌日からも晴天は続き、瑞希様が帰国する日がやってきた。
今日も朝から綺麗な透き通る冬の空が広がる。
12月中旬ともなると、更に冷え込みが厳しくなって来て、思わず箒を握りしめたままブルッと身震い。指先を温めたくて吐いた息は澄んだ空気にフワリと白く舞い上がり青に溶けていった。
マフラーは瑞稀様にお渡ししたから、無い。
あの時は寂しそうな表情をしてた瑞稀様が凄く寒そうに見えて、咄嗟に巻いてしまったけれど。今考えたら、恐れ多い事したよね…私。
また通り過ぎて行く北風。それにまた身を強ばらせた。
…ニューヨークはもっと寒いのかな。
瑞稀様はお忙しいから。体調を崩さないといいけれど。
『気になんの?そいつの事』
ご、ご主人様だもん、気になって当然です。
…それ…だけですよ?それだけ。
透き通る冬の空に何となく心の中で返事して大きく息を吐いたら
「よう、今日も朝からご苦労さん」
肩をポンって叩かれた。
「あ、涼太さん、おはようございます!」
「今日、瑞稀、帰って来るよね?」
私の心を見透かしてるかのように、ニッと笑う涼太さん。
「つーわけで、瑞稀、が帰って来たらさ、また温室に花、取りに来てくれる?」
「お花をさすのでしたらここのお掃除が終わってから出来ますけど…。」
首を傾げた私に少し苦笑い
「…瑞稀が“帰って来たら”にしてもらっていい?」
どうしてだろう…?
でも、涼太さんがそう言うならその方が良いのかな、瑞稀様にとって。
.
このお屋敷で唯一瑞稀様を呼び捨てしてる涼太さん。
話に寄ると、圭介さんと涼太さんと瑞稀様は大学の同期で仲が良かったと言うことだ。
そんな二人がどうして、ここのお屋敷に従事しているのだろう…と少し不思議に思ったりもしているけれど、長年勤めている坂本さんですら知らない事みたいだから。私には到底わかるはずのない事なのだと思う。
ただ…あくまでも私の印象だけれど、お二人とも瑞稀様の話をされる時、同じ様な表情になる気がする。何と言うか…“柔らかい、笑顔”で…
「二人ともおはよう。良かった、鳥屋尾さん、会えて。
今日、瑞稀様が戻られたら、涼太に花貰って、飾りに行ってもらっていい?」
薮さんがお屋敷の玄関を開けて、庭に降りてきた。
「あ、それ、俺が今同じ事言った」
「なんだよ~そっか。涼太、サンキュ。じゃあ、俺行くわ。」
私が会話に口を挟む間もなく、また屋敷の中へと戻って行く圭介さんに、涼太さんが笑う。
「相変わらず、忙しいな圭介も。
まあ…瑞希に比べりゃまだましなんだろうけど。」
「また後で」と去って行く涼太さんの後ろ姿を見送りながら、また瑞稀様のあの綺麗な笑顔が脳裏を掠めた。
そうだよね…瑞稀様はきっと誰よりもお忙しい。
ここのお屋敷に戻られた時は少しでも休める様に務めなきゃ。
私に出来る事はたかがしれてるけれど。
一生懸命にお屋敷を綺麗にして、戻られたら花を花瓶に差しに行こう。
箒を仕舞いに倉庫へと向かったら、また首元を冷たい風が通り過ぎて行く。
…そうだ、お部屋を少し前もって温めておかなくては。
そんな事を考えたら、少しだけ寒さで強ばってる足取りが軽くなる。
ご不在の間も、お部屋の掃除や洗濯物を仕舞ったりで、何度か部屋を訪れてはいたけれど何となく、主が居ない部屋をノックする事に寂しさを感じてた。
だからだろうか。瑞稀様がお帰りになる事が今、とても嬉しく思える。
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『もう会いに来ちゃダメだよ』
そう言われて別れた、智樹さんとの再会。
どうしてあんなに頑に『会いに来るな』って言うんだろう…。
お屋敷にお伺いしてるわけでは無いから、あそこに行くなら良いかなと思ったのに。
青い空をのんびり移動する雲を見上げてたら、あの柔らかい笑顔と空気を思い出す。
智樹さん…私、また会いに行きます。
確かに智樹さんは私にとって元ご主人様だけど、それだけじゃないから。
北風がヒュウッと容赦なく何も巻いていない首もとを通り過ぎ行った。
「う~…さっむい。」
智樹さんに会った翌日からも晴天は続き、瑞希様が帰国する日がやってきた。
今日も朝から綺麗な透き通る冬の空が広がる。
12月中旬ともなると、更に冷え込みが厳しくなって来て、思わず箒を握りしめたままブルッと身震い。指先を温めたくて吐いた息は澄んだ空気にフワリと白く舞い上がり青に溶けていった。
マフラーは瑞稀様にお渡ししたから、無い。
あの時は寂しそうな表情をしてた瑞稀様が凄く寒そうに見えて、咄嗟に巻いてしまったけれど。今考えたら、恐れ多い事したよね…私。
また通り過ぎて行く北風。それにまた身を強ばらせた。
…ニューヨークはもっと寒いのかな。
瑞稀様はお忙しいから。体調を崩さないといいけれど。
『気になんの?そいつの事』
ご、ご主人様だもん、気になって当然です。
…それ…だけですよ?それだけ。
透き通る冬の空に何となく心の中で返事して大きく息を吐いたら
「よう、今日も朝からご苦労さん」
肩をポンって叩かれた。
「あ、涼太さん、おはようございます!」
「今日、瑞稀、帰って来るよね?」
私の心を見透かしてるかのように、ニッと笑う涼太さん。
「つーわけで、瑞稀、が帰って来たらさ、また温室に花、取りに来てくれる?」
「お花をさすのでしたらここのお掃除が終わってから出来ますけど…。」
首を傾げた私に少し苦笑い
「…瑞稀が“帰って来たら”にしてもらっていい?」
どうしてだろう…?
でも、涼太さんがそう言うならその方が良いのかな、瑞稀様にとって。
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このお屋敷で唯一瑞稀様を呼び捨てしてる涼太さん。
話に寄ると、圭介さんと涼太さんと瑞稀様は大学の同期で仲が良かったと言うことだ。
そんな二人がどうして、ここのお屋敷に従事しているのだろう…と少し不思議に思ったりもしているけれど、長年勤めている坂本さんですら知らない事みたいだから。私には到底わかるはずのない事なのだと思う。
ただ…あくまでも私の印象だけれど、お二人とも瑞稀様の話をされる時、同じ様な表情になる気がする。何と言うか…“柔らかい、笑顔”で…
「二人ともおはよう。良かった、鳥屋尾さん、会えて。
今日、瑞稀様が戻られたら、涼太に花貰って、飾りに行ってもらっていい?」
薮さんがお屋敷の玄関を開けて、庭に降りてきた。
「あ、それ、俺が今同じ事言った」
「なんだよ~そっか。涼太、サンキュ。じゃあ、俺行くわ。」
私が会話に口を挟む間もなく、また屋敷の中へと戻って行く圭介さんに、涼太さんが笑う。
「相変わらず、忙しいな圭介も。
まあ…瑞希に比べりゃまだましなんだろうけど。」
「また後で」と去って行く涼太さんの後ろ姿を見送りながら、また瑞稀様のあの綺麗な笑顔が脳裏を掠めた。
そうだよね…瑞稀様はきっと誰よりもお忙しい。
ここのお屋敷に戻られた時は少しでも休める様に務めなきゃ。
私に出来る事はたかがしれてるけれど。
一生懸命にお屋敷を綺麗にして、戻られたら花を花瓶に差しに行こう。
箒を仕舞いに倉庫へと向かったら、また首元を冷たい風が通り過ぎて行く。
…そうだ、お部屋を少し前もって温めておかなくては。
そんな事を考えたら、少しだけ寒さで強ばってる足取りが軽くなる。
ご不在の間も、お部屋の掃除や洗濯物を仕舞ったりで、何度か部屋を訪れてはいたけれど何となく、主が居ない部屋をノックする事に寂しさを感じてた。
だからだろうか。瑞稀様がお帰りになる事が今、とても嬉しく思える。
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