花の苗の買い付けを終えて戻って来た温室。裏手から昔懐かしい匂いが漂って来た。



「…珍しいじゃん。つか、禁煙だよ?ここは。」

「あ~…硬い事言わないでよ、涼太。」


久しぶりに見たな…圭介がタバコ吸ってる姿。
隣に座ったら、自嘲気味に眉下げて笑う圭介。


「俺さ…心のどっかで、甘えてたんだよね、多分。『伊東さんはなんだかんだ、分かってくれる』って。」


悲しみを纏うその言葉が煙と共に空へと浮かんで消えていく。


「…でも、あの人はあくまでも『執事』だった。」


プカプカと浮かぶ煙に瑞稀と咲月の笑い合う顔が浮かんだ。


「圭介、俺にも1本頂戴」


貰ったタバコの煙をフーって吐き出したら、それも空に向かって消えていく。


「うまっ」

「な。大学卒業と共に禁煙だから、何年ぶりだよって感じ。」


暫く二人して灰色に染まる空に向かって煙をはき出していた。


ほんと、どん位ぶりだろう…こんな気が抜けた様な時を過ごすのって。


「…もう、ここにいるのも意味ねえかもな。」


呟いた俺の言葉に、寂しそうに「…だね」と笑う圭介さんの口からまた煙が立ち昇った。


後は、瑞稀次第…かな。


そしてもう一人。


「真人さんに連絡ってとってんの?」

「や、あいつ、また音信不通になりやがった。」

「そっか~。どこ行ってんだろうね。」


再び二人で見上げた空にあいつの笑顔。


『涼太、瑞稀の事よろしくね?』


真人…早くしろ。
俺らはもう、とっくに準備出来てる。


「…うわっ!何これ!火事かと思ったじゃん!煙っ!」


………はっ?


「ええっ?!ま…ぐえっ!」
「ただいま、圭介!」

ま、真人?!


長い腕、細いけど広い背中…そして、圭介が息出来ない程、加減無しのバカ力で抱き締めるその姿。


「お前、何でいるんだよ!」

「えーっだって、涼太が『まだなの?早く戻って来いよ』なんてラブレターを…。」
「っ!か、書いてねえ!」

「…書いたんだ、涼太。」


腕を解かれ息苦しそうにしてる圭介が俺に眉を下げたら、憂鬱な曇り空を吹き飛ばす様に、真人の陽気な笑い声が当たりに響き渡った。