「…ここでの生活は日々楽しくて、めまぐるしくて。きっとあっという間に過ぎて行きますから。すぐに会えますよ。」


俺の頬を包んで、無理矢理笑顔つくる咲月。


「ここのお屋敷は、智樹さんの所とは違うけれど、温かくて。私、とても好きなんです。ここにお務め出来て、本当に良かったって思っています。
瑞稀様にも出会えて…こうして良くして頂けて。これ以上望んだら罰があたります。」


「ね?」と小首を傾げるその姿に、また心がぎゅっと苦しくなった。





…絵と手紙を渡した時の咲月の反応は大体わかっていた。


多分、それは圭介も同じで、「俺が渡そうか」と言ってくれたけれど、流石にそれは、ズルイ事だろうと思ったから。

事情を話さないにしても、俺が咲月に渡さないと。そこは逃げちゃいけないでしょって思ったんだけどね。


ちゃんと冷静に…と気持ちに釘を刺していたつもりだったのに。
何も知らないで、不安げにしてるその表情が居たたまれなくて、乱暴に抱き寄せたら色んな感情が込み上げてしまって。

…結局この有様。

俺が励まされてどうすんだよ…。


確かに、凹んではいるけどさ…自分の最低加減には。


事情はどうあれ、咲月の事を金で買った上に、咲月が大切にしてる人も想い出の場所も全部、完全に取り上げたんだから。


気持ちが張り裂ける程に痛んで、思わず回した腕に力が籠る。



…だけど、守りたかった。


咲月も…。
咲月を大切にしてる『智樹さん』の想いも全部。


ごめん、こんな方法しか思いつかなくて

だけど

そんな俺でも、あなたが望む限り、ちゃんと俺はあなたを守るから


「…咲月の居場所はここ。」


閉じ込めた腕に力を込めたら、か弱いけどクスリと笑う声。


「瑞稀様の…腕の中ですか?」
「そうだよ。文句ある?」


ギュっとその腕が背中に回って来た。


「ずっと、ここがいいです。私は…。」


俺を見上げた微笑みは、潤いで満たされてる瞳を有す寂しさを纏ったものだったけれど。

今まで見た中で、一番だって思う位、凛としていて綺麗だった。


咲月……。

俺は我侭だからさ。

どうあがいても『智樹さん』みたいに“見返りを求めない”ような愛し方は出来ないと思う。

だけど、お前が望むならいくらでもこの手で抱き締めるから。

どうか、ずっと俺を好きでいて…。