「じゃぁ、話はそれだけだから」
「えっ…?これだけのために…?」
「うん…遅い時間にごめん、じゃぁ」
そう言って俺が玄関のドアノブに手をかけた時、
「待って!小林くんっ」
「えっ…?どうした?」
「えっと…だって、こういうのって、その……」
早瀬は上手く言葉が出てこないのか、困ったような顔をしていた。
「小林くんって…あの…」
「……え?」
そう言って、俺達は数秒見つめ合った。
そう…早瀬の瞳で、俺は気づいてしまった。
"早瀬は、俺の気持ちに気づいてる”
そう…思った。
「ごめん…今日はもう遅いから、じゃぁ…おやすみ」
「あ…うん、おやすみ」
そう言った早瀬の視線が、ドアを閉める自分の背中に向けられているのを感じた。
そして扉が閉まり、俺は早瀬のアパートを離れて、自分の家の方へ歩く。
早瀬の瞳を目の前にすると、勇気が出ないのは…あの頃からの悪い癖だ。
でも、ちゃんと…ちゃんと…伝える。
このまま、友達のような関係でいれば…早瀬を失うことはない。
でも、もう…他の誰にも渡したくないっ…。