「ごめん。夢中になりすぎて時間、気にしてなかった。送っていくよ」

 ふたりで麦茶を飲みながら窓の外を見ると、もう星が瞬きだしている。

 うっすらと明るい西の空もじきに暗くなるだろう。

 もう少し、もう少しだけでいいから靭也と一緒にいたい。


 夏瑛の気持ちはもう限界に達していた。

 もうこれ以上、抑えることなんて無理だ。

 もう自分には靭也のことしか見えない。

 靭也の声しか聞こえない。

 靭也のことしか考えられない。

 これまでのように、たまに会って、普通に会話して、じゃあまた、と別れることは考えられない。

 夏瑛の全身に、靭也があふれかえってしまっていた。

 なんとかこの時間を引きのばせないだろうか。

 だだをこねて、「もう少し一緒にいたい」と言ったら、靭也はどんな顔をするだろう。

 いろいろと思いを巡らせながら、アトリエの中でぐずぐずしていると、先に外に出ていた靭也が声をかけてきた。

「ほら、行くぞ。あまり遅くなったら、お母さんが心配するだろう?」

「……うん」

 夏瑛はしぶしぶ外に出た。