「ふーっ」靭也が大きな息をついた。

 その瞬間、アトリエに漲っていた緊張が解けた。

 靭也が精魂尽き果てたという表情で、ソファーにどさっと腰をおろした。

「完成したの?」夏瑛は訊いた。

「ああ、後は明日、微調整するぐらいかな」

 そう言いながら靭也は、サイドテーブルから煙草を取って唇の端に(くわ)えた。

 充足感に浸ってソファーの背に身を預けている、のけぞった首筋があまりに(なま)めかしくて、

 夏瑛は目のやり場に困ってしまう。

 動揺をごまかすために「麦茶、入れてくるね」といって台所に急いだ。