もう何度も夢で見た。

 あの日、靭也が貴子のコーヒーを飲んだ場面を。

 5年間、癒されることのない傷が、この瞬間も夏瑛の心をじくじくと蝕ばみつづける。

 イーゼルに靭也の作品がたてかけてある。

 画面の中央に、背中を向けた有翼の人物が描かれている。

 長い髪を垂らし、こちらを見返っている女性。

 その足元に縋りつく人物も描かれている。

 貴子と靭也だ。

 顔や姿が似ているわけではない。

 でも、夏瑛にはわかる。

 今でも靭也は貴子のことを想っているのだ。

 心の傷からまた血が滲みだすのを感じた。

 どうしようもなく沈んでいく気持ちを包み隠すために、夏瑛はふたたびビール瓶と対峙しはじめた。