初心者の夏瑛のために、靭也は鉛筆や木炭の使い方、形の取り方など、基本からていねいに教えてくれた。

「大事なのは、まず対象を、それこそ穴があくほど見ること。形はもちろんだけど、光の当たりかたに注意するんだ。平面に立体を描くってことは、要は光の当たり具合をどれだけ再現できるかってことにあるからね――」

 絵のことを話し出すと止まらなくなるんだ、と夏瑛は思った。

 まだまだ自分の知らない靭也がいる。

 「試しに描いてみて」と言われ、アトリエにあったティッシュボックスを描いた。

 ひととおり描き終えて、靭也に見せる。もちろん合格点はもらえない。

「教えることはたくさんありそうだな」と言って、手直しをしてくれた。

 そして、その技術の確かさに驚いた。

 自分が描いた下手な絵でも、靭也が少し手を加えると、急に描かれた物の存在感が増した。

 箱から顔をのぞかせているティッシュは、見るからに柔らかそうだ。

 夏瑛は、いつか、靭にいちゃんみたいに描きたいと思った。

 それに、目の前にある物を紙の上に再現するのは面白い。

 いつしか夢中でその行為に没頭していった。