「部長、おはようございます」
広いフロアの一番奥のデスクで、窓を背にコーヒーを飲んでいた部長に声を掛けた。

「ああ、おはよう」
ニコリともせずに帰ってきた返事。

営業部長山川実。歳は50歳。一見人当たりのいいダンディーなおじさまなのだけれど、実はとんだ食わせ者。
利益のためなら平気で嘘をつくし、汚い手だってためらわない。
特に女の私が営業をしていることが気に入らないらしく、ことあるごとに文句を言われている。

「だから女は・・・」が部長の口癖。

「で、何の用だ?」

こんな時間に私が声を掛けるのは良くないことと感づいたみたい。

「あの・・・」

「こっちは暇じゃないんださっさと言え」
なかなか切り出せずにいた私に、不機嫌そうな声でたずねる。

「山通への納品に遅れが出まして、田中工場長からクレームが」
「はあ?なんで?」
「色々トラブルが重なったようで2日前の到着予定が今日の午前中になりそうです。午後には製造ラインが止ると連絡がありまして」

「ラインが止るって・・・ふざけるなよ。何でそんなことになるんだっ」
「いえ、午前中には届く予定ですので、実際止ることはないのですが・・・」
「今の時点で着いてないんだろ?」
「ええ」
「担当は誰だ?」
「小熊です」
「じゃあ鈴木、お前の責任だ」
「はい」

一応上司である以上言い訳はできない。

小熊くんはいい子だけれど、若さに任せて突っ走ってしまうことがあるし、詰めが甘い所もある。もう少し目を配っておくべきだったのかもしれない。