沢山揉まれ、髪までツヤツヤになって。
「ぷはぁ〜…」
「沢山飲んでくださいね」
ゆっくりお風呂に入った後は冷たいお水。
生き返る…。
私、ヒナなしじゃ生きていけなくなりそう…。
「アリス様、前よりお痩せになってます…」
「そ、そう…?」
「はい。これ以上痩せたらドレスが着られなくなります。怖い、ですか…?」
「大丈夫‼︎ちゃんと食べているし…」
「半分しか召し上がらないじゃないですか…」
「…………」
「わかりましたっ‼︎ヒナが元気になるご飯を作ってきます‼︎」
「えっ?ヒナが…?」
「待っててくださいね‼︎」
ヒナっていつも元気…。
あの宰相様がのびのび育ててくださったのね。
料理もできるなんて、ヒナって魔法使い?
「ふふっ…」
楽しみね。
ヒナが戻るまで、少し休もう…。
ソファーに横になり、クッションを抱きしめて目を閉じた。
息苦しさで目が覚めると、視界が狭い。
「なっ…に…」
「そのまま寝てていい」
「えっ、殿下っ⁉︎」
「チッ、起きたか…」
「なななな、何してるんですかっ…」
「何って…、アリスで遊んでたんだが?」
悪びれる様子もなく、私の上に乗りキス…。
遊んでたって、私はオモチャじゃないのだけれど?
「いい匂い…」
「ヒナにオイルマッサージを…」
「ふぅん、髪も」
殿下が手にした私の髪がスルリと滑り落ちた。
「なぜここにいるのです?」
「友人が一緒に食事しないかと言うので、誘いに来たのだ」
「あっ、今ヒナが私のご飯を作りに行ってくれてて…」
「ヒナが?それは…食べてみるといい。サミールにはまたの機会にと言っておく」
「すみません…?」
あっさり引き下がった…。
てっきり強制連行かと思ったのに。
「無駄足を踏んだな。で?俺の貴重な時間を割いた代償は?」
「は、い…?」
「ヒナが来るまでだな。よし、座れ」
膝の上に座らされ…キス、キス、キス…。
逃げようとすれば捕まえられて、逆に殿下を喜ばせる。
大人しくしていれば、息もつけないほどのキスで逃げないと死にそうになる。
あぁ、この人は私の嫌がることを、嫌がるポイントを完全にわかってやっているわ…。
「お待たせしましっ…ごごごっ、ごめんなさいっ‼︎あっ、申し訳ありませんっ‼︎失礼しますっ‼︎」
「よい、もう要は済んだ。ヒナが作ったのだと聞いたが、それは母上直伝のものか?」
「は、はい…。あまりにも細いので、がっつり系を…」
「アリスの力になってくれ、ヒナ。では私はこれで」
真っ赤な顔のヒナが頭を下げて、部屋を出て行った殿下に向かってクッションを投げつけた。
閉められたドアによって殿下に命中しなかったけれどね。
「変なもの見せてごめんなさい、ヒナ…」
「いえっ‼︎仲良きことはいいことですっ‼︎」
「なんだかいい匂い…」
「これ、カツ丼です‼︎お召し上がりください‼︎」
ヒナの心遣いは、とても温かい味がした。
私のオアシスはヒナ、あなたよ…。
【フィンリューク】
アリスをいじめるのがたまらなく楽しい。
いい息抜きになる。
「なぜ逃げ腰なのだ、我が妃よ」
「お出迎えですよ⁉︎ちゃんとご挨拶しないと…。私、皇帝陛下にお会いするの、初めてなので…」
「仲のいいところを見せてやれば、父上も安心すると思うのだが」
「嫌がらせもほどほどにしてくださいっ‼︎」
逃げようとするアリスの腰をガッチリと包み込み、引き寄せて顔を近づける。
宰相やジェードが呆れているが、楽しくてやめられないのだ。
「そのイヤイヤがたまらない…」
「殿下、陛下がおつきになりますよ…」
「夫婦の話を邪魔するな、ジェード」
「目に余ると言っているのですが。そのあなたのアリス様いじめ」
「いじめてなどいない。楽しんでるのだ」
「…………アリス様、殿下をこんな風にした責任、とってくださいね…」
ジェードにまでそう言われて、この世の終わりのような顔をしているアリスが、本当にたまらない。
俺はどこかおかしかったのかと、最近ようやく理解した。
寄ってきて、こびを売る女に全く興味が湧かなかったのも、俺を落とそうと色仕掛けで来る女も。
全部同じ。
アリスだけが俺を拒み、嫌がる。
しかも本気で。
それを追いかけて、追い詰めて…泣かせた時の快感。
あぁ、こういうことだったのかと、なぜか府に落ちたのだ。
とてもいい顔をする。
最近ハマっているのはアリスとのキスで、受け身でいるアリスをとことん追い詰めて、逃さないように自由を奪う。
ムラムラする…。
「両陛下のご到着です」
その声で、一応離れた。
アリスは深く礼を取り、俺も頭を下げる。
「お帰りなさいませ、皇帝陛下。道中、何事もございませんでしたか?」
「あぁ、何もない。とても有意義な旅となった。助かった、リューク」
「それはよかった。帝国記念日の式典も滞りなく」
「旅先の王がお前を褒めていた。妃も、ご苦労であったな」
そうか、父上に会うのは初めてか。
頭を上げたアリスに微笑む母上。
「お初にお目にかかります、アリスでございます。長旅、お疲れ様でございました」
「リュークの奥さんはとても美人だと、噂になったそうよ。ごめんなさいね、ワガママで仕事を押し付けてしまって」
「いえ、とても貴重な経験をさせていただいたと思っております。いろいろな国の方にもご挨拶ができて、私も有意義でございました」
しっかりしてるな、アリス。
その顔を歪ませたいのだが。
「父上、仕事のお話は明日以降でよろしいですか?」
「いや、今聞こう。明日から私は馬車馬の如く働かされるのでな…」
「信じられないですよ、あの仕事量…」
父上と城の中に入り、アリスは母上と話しながらどこかへ行った。
上着をアレンに渡し、ソファーにもたれる父上に、疲れは見えない。
リフレッシュできたのだろう。
たまには親のワガママも悪くない。
また、旅にでも出てもらおう。
ルイとの仕事の分担、父上の代理としてできる仕事は全部終わらせたこと。
式典でのことなんかを何も言わずに聞いてくれた。
「ルイに手伝ってもらったとはいえ、難儀をかけたな」
「尊敬します、父上。あれは異常です…」
「ははっ、慣れるものだ」
すごいな…。
ライバル視して、勝手に抜いてやると意気込んでいた自分がいかに浅はかだったかと思い知った。
反省もしたし、やっぱり尊敬が大きくなった。
「妃とは仲良くやってるようだな」
「えぇ、まぁ。相当嫌われていますが」
「そうなのか?」
なんて説明すればいいのかわからん。
俺が嫌がらせしてるから?
「陛下、あなたの息子はとんでもなくサディスティックですよ…」
「ん…?」
「アリス様を泣かせて楽しんでいますから…」
「それは…父としてものすごく微妙なのだが…」
アレーン‼︎
なんでバラすんだ‼︎
恥ずかしすぎるっ‼︎
苦笑いの父上に、まだ仕事が残っていると言って執務室に入った。
まぁ、本当のことだけど…。
「ジェード、羞恥に耐えきれずに逃げ出したくなったことはあるか…?」
「ありますね。王立学校時代に寮に入り、風呂でパンツを隠された時ですね」
「そんなのかわいいものだな…」
逃げ出したい…。
バカ宰相め…。
「ちょっと、逃げ出してくる」
「えっ…、まさか殿下…」
「服をくれ。あと馬」
「抜け出す気ですね…。絶対ダメです。お忍びで行くなら、私もお供しますから、正式に許可を取りましょう」
久しぶりに外へ出たくなった。
俺も休みが欲しい。
うん、頑張ったから休んでも文句は言われないだろう。
それから正式に許可をもらい、お忍び決定。
明日は休みだという日、アリスの部屋へやってきた。
「お休みですか⁉︎」
「あぁ、外へ行く。お前も行くか?」
「えっ⁉︎いいのですか⁉︎行きたいです‼︎」
一緒に行くことにした。
俺とジェード、アリスとヒナの4人で行くことになり、アリスは本屋に行きたいと張り切っている。
「ドレスでは目立つ。ヒナに服を調達してもらおう」
「た、楽しみっ‼︎」
「ははっ、珍しく笑うのだな」
「だって、久しぶりの街です‼︎」
「下町だけど、いいのか?」
「下町、憧れだったのです‼︎」
こんなに楽しそうなアリスを初めて見た。
こういうのも…悪くないものだな…。
「王都だとアリスの知り合いにも会ってしまいそうだし、俺は王都と下町で警備隊にいたことがあって、顔見知りも多い」
「えっ?そうなのですか⁉︎」
「まぁ、正体を隠しての偽名だったがな。さすがに今更『皇子でした』と名乗るわけにもいかない。明日は俺を『グレン』と呼べ」
「グレン…様?」
「敬称はいらない。グレンでいい」
「はい、グレン‼︎」
本当に嬉しそうにしている。
「口裏あわせに付き合ってもらうぞ」
「はいっ‼︎喜んで‼︎」
こうして、アリスも一緒に休日を過ごすことになった。