「榊田君はいつも優しいね。私のわがままに付き合ってくれる」



 目を細め微笑む水野を俺は黙って見下ろす。


 これが、わがままに入るわけないのに馬鹿なやつ。


 俺がお前に従うことなんか無意識にわかっているくせに。


 こんな水野を見ていると、つい手を出してしまいそうになるから視線を不自然じゃない程度に逸らす。



「おみくじを引くだけでお前は満足なのか?どうせ行くんだ、他はないのか」



「あと、その近くに、恋人同士で行くと良いって言う喫茶店があるって雑誌に書いてあったの。あっ、興味ないかもしれないけど、おいしいとも書かれてあったよ!だから……」



「わかった。付き合ってやる」



 こいつが喜んでくれるなら、俺はどんなことでもしてしまうのだろう。


 ましてや、こんな簡単で可愛い願いごとを叶えないはずがない。



「ありがとう!早く、寝ないと。少し遠いから早めに出るから寝坊しないでね」



 そう言って、水野は嬉しそうに布団に手をついて立ち上がる。



「お前に言われたくない。寝坊したら、置いて行くからな」



「ちゃんと、起きますよ。寝坊なんてしないんだから」



「あっそ」



 べーとガキみたいに舌を出して、水野はふすまを開けて出て行こうとしたが、ぴたりと止まった。


 そして、開けたふすまを閉め俺の前まで戻って来て、布団の前で膝をつき俺を見つめること数秒。


 ちょんっと、軽いキスをしてきた。



「………………」



「…大好き。おやすみなさい」



 ほんのりと赤く染まった頬のまま恥ずかしそうに微笑んだ。


 仁に見せる時とは比べ物にならないほど、可愛いかった。