「ただいま」

返事の聞こえないリビングのドアをそっと開けると、テレビをつけたまま明莉がソファーで寝息をたてていた。

その可愛らしい寝顔に一日の疲れなんてすぐにふっとんで、先程の悩みなんて一瞬で頭の中から消し飛んだ。

寝室まで運ぼうか悩んだが、起こしてしまいそうで側で寝顔を眺めていたくて、テレビを消して寝室から運んできた毛布を明莉にかけた。

静かにそっと唇を重ねる。

唇から伝わる温もりに心があっという間に満たされていく。

「うまそっ」

テーブルに並べられた夕飯を温めて、気持ち良さそうに眠る明莉の寝顔をみながらかなり遅めの夕飯をとる。

「ごちそうさまでした」

なるべく物音をたてないように食器を片付け、風呂場に向かった。

温かな湯槽に身を沈めて、先程の明莉の姿を思い出す。

この明莉と暮らす俺たちの家の中では、明莉以外のことは考えない、一緒に住み始めた時に俺は心に固く誓った。

回りが呆れるくらいに俺は明莉にベタ惚れだ。

付き合い始めたときもそうだが、結婚してからはとくに、人目もはばからず、自分の真っ直ぐな気持ちを隠すことなく言葉に態度に出している。

こんな意外な自分の一面に呆れもするが、自分の気持ちに素直でいれる自分自身は嫌いではない。

「ふぅっ」

明莉のことを考えてすっかり心の中も体も温まった時に、風呂場のドアに人影がうつり、扉がたたかれた。