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「いってらっしゃい!香田工場長」

「うっ!」

靴をはく蓮司の後ろ姿に声をかけると、照れ臭そうに笑いながら言葉をつまらせ振り向いた。

「なんか、慣れないと恥ずかしいな」

そう言いながら手を伸ばして私を腕の中に閉じ込める。

「ごめんな、今日休みとれなくて。

式場の最後の打ち合わせなのに、一緒に行けなくてほんとにごめん」

「気にしないで。
私なら大丈夫だから。和にぃが暇だから一緒に行くってさっき連絡きたから」

和にぃ…和希(かずき)兄さんは五つ上の三十歳。三人にいる兄の二番目の兄だ。

上から孝俊(たかとし)三十三歳、和希(かずき)三十歳、秀哉(しゅうや)二十八歳。

私には三人の兄がいて、特に二番目の和にぃには、とくに甘やかされて干渉されて育った。

最後まで蓮司との結婚を反対して、蓮司をからかって意地悪をしていたのは和にぃだ。

交際を承諾してくれた時も、和にぃはまだ帰宅していなくて、孝にぃと秀にぃでみとめてしまったから、後で大騒ぎして大変だった。