結婚式は私が二十歳になった初夏と決まっていた。

京都から私を送り出してくれたのは、父の邸宅の清掃家事全般、私の身の回りの世話をしてくれたお手伝いさんがふたり。
それと、父の部下では私と一番歳の近い日下部諭(くさかべさとる)だけだった。五つ年上の諭は私には兄同然の存在なのだ。

『幾子お嬢さん、大丈夫か?嫌になったらいつでも戻ってくるんやぞ』

諭の優しい言葉が嬉しかった。覚悟の上のお嫁入りだけど、諭は兄として私に居場所を用意してくれている。それがありがたかった。

『平気。幸せになるから、諭は心配しないで』

朝早く父と到着した東京、金剛本家は壮大な大邸宅だった。敷地面積の広さもさることながら、平家の和風建築は趣き深く、ここが都心の一等地であることを忘れそうになる。三実さんはここに住んでいて、私もまたこの家の一員になるのだ。

到着して早々に、荷物だけ預けて移動となった。
テレビで見たことのある大きな神社は邸宅から近く、タクシーを降りるとすでに迎えの女性が来ていた。
父と離れ、私は花嫁の身支度を整える。化粧をされ、白無垢を着せられる。着物も慣れないけれど、白無垢の重さはびっくりするほどだった。じっとしていればいいとはいえ、日差しの強い五月にこんな重たいものを着るなんて。

支度万端、私は介添のおばさんに連れられ、廊下を進む。
自分が神社のどこにいるのかわからないけれど、支度の間からずいぶん離れた位置に控えの間があるようだった。親族の待合室らしい。

『幾子様御到着です』

私は介添えに支えられながら一歩踏み入れた。