それから二年が経った。高校卒業後は、父の下で甘屋デパートの事務職を経験した。本店の営業部に在籍し、営業サポートの仕事をし、経理や総務も手伝った。皆、社長の娘である私に優しく接してくれたので、思えば働きやすい贅沢な環境だった。

並行して花嫁修業もさせられた。家事はひと通りできるつもりだったけれど、料理と裁縫を基礎から叩き込まれた。
どうやら、母が家事全般不得意だったのを、父はいまだに根に持っているらしい。私を母と同じような女にしたくないというのは、口にせずとも伝わってきていた。

その間、三実さんは一度も私に会いにこなかった。
数ヶ月に一度贈り物は届く。花束だったり、豪奢な佐賀錦の袋帯だったり、アンティークのテディベアだったり。
『あなたを想っています』というような短いけれど丁寧な手紙がついてきて、その都度私はお礼状を書いた。

しかし、本人は一向に姿を見せなかった。

こんなものだろうか。婚約者とはいえ、家同士が決めたこと。贈り物を贈り合い、手紙を交わすだけで充分なのだろうか。
東京と京都だ。さほど遠いわけじゃない。忙しくて会いにいけないということもないだろう。それとも私から会いにいくべきなのだろうか。そんなこと、心もとなくてできない。

二年の月日を会わずに過ごすうち、私は初対面の時、彼に抱いた恐怖心を忘れ始めていた。
思えば、私も緊張していたのだ。三実さんもまた緊張で表情が強張っていたのかもしれない。
それで、凶暴な雰囲気に見えたのではなかろうか。
きっとそうだ。
だって、私に心のこもった贈り物をしてくれる彼は、思いやり深い人に違いない。家のため、私のような小娘と結婚を強いられているのに、極力優しくしようと心を砕いてくれているのだ。
私にできることは彼を信じ、花嫁修業に勤しむことではないだろうか。