『ほら、三実、そんなに見つめては失礼だぞ』

一久さんが言い、彼は照れたように笑顔を作った。瞬時に汗が滲むような気配は掻き消えた。

『すみません。幾子さんがあまりに可愛らしくて、美しいので』

完全に一家の末の弟に戻っている。少なくとも雰囲気はそう見える。人懐っこい笑顔は、先ほどの笑顔とは別物だ。本当に同じ人間だろうかというほど。

『幾子さん』

金剛三実が私を呼んだ。私はぎくりと肩を震わせ、彼の天真爛漫にも見える笑顔を見つめ返す。

『あなたを大事に幸せにしたいと思っています。私のところへお嫁にきてくれますか?』

父に肘でつつかれるまで私は自分が固まっていることに気づかなかった。
頷く以外に選択肢がない。私は慌てて首を縦に振った。

『はい……』

もうほとんど決定だったとはいえ、これは正式なプロポーズであり、私はプロポーズを受けた格好だ。答えてしまってから状況にぞっとした。
私は、この得体の知れない人に、自ら嫁ぐと言ってしまったのだ。

『いやあ、本人たちがその気なら一番いいですね』

一久さんが言い、父も満足そうにうなずく。

『ありがたいお話です』
『幾子さん、お嫁入りはあなたが二十歳の年です。二年ありますから、気に入らなければいつでもこいつを振ってやってくださいね』

一久さんは弟を小突くようにし、それから私以外が楽しそうに笑い声をあげた。

『幾子さん、ありがとう。二年後が待ち遠しいな』
『はい、三実さん』

彼の名を初めて呼び、私はまだ違和感の正体を判じきれずにいた。
さっきの獰猛な瞳はなんだったのだろう。