「俺なりに幾子を大事にしたいと思うと、距離を取らざるを得ないんだ。だが、確かに男らしくないし、夫として恥ずかしい態度だった。反省している。今後はおまえのそばにいつつ、自制を利かせる訓練をしていこう」
「三実さん」

私は言葉を切って、ため息交じりに言った。

「そういうところ、少し怖いです」
「そうか!すまない!」

明るく謝られて、私は前途多難な結婚生活に口の端を引きつらせた。
だけど、三実さんの笑顔の種類があきらかに変わっていることには気づいていた。




動物園をじっくりと堪能すると、もう夕方近くなっていた。日が高いのであまり気にならなかったけれど、かなり長い時間を過ごしたことになる。
三実さんとふたりきりでデート。そうか、これが初デートなのだと実感する。
三実さんは早く男女の仲になりたいと思いながら必死に耐えてくれている。ちょっと、いやかなりギリギリのラインで、しかも強すぎる気持ちを抑えているみたいだから、恐怖しか感じないけど。

気持ちに応えてあげたいのと同時に、ゆっくり関係を育んでいきたいと思った。
私を愛してくれているこの人を好きになりたい。長い時を過ごす夫婦なんだもの。