「思っていません」

私の答えに、三実さんの緊張感がわずかに緩んだ気がした。

「どうしたらおまえが喜ぶか、わからない」
「三実さん」
「少し話すか」

ベンチに並んで腰掛ける。三実さんは、鳥類の温室を外から眺めながら口を開く。

「幾子は信じないかもしれないが、俺はおまえに惚れている」

返す言葉がない。とてもそんな風には見えなかった。可愛い、美人だという褒め言葉すら、空々しく響いたというのに。

「正直に言えば、今すぐこの場で抱いてしまいたい」
「み、三実さん……」

誰も聞いていないとはいえ、家族連れの多い休日の動物園だ。私は狼狽し、熱い頬のままうつむいた。

「こういう欲求は隠した方がいいと思っているんだがな。初夜と先々週の晩は少々暴走してしまった。怖い想いをさせただろう」

私は首を左右に振った。本音を言えば怖かった。だけど、額面通りとってほしくないので、言葉を付け足して答える。

「引っ掻いてしまいすみませんでした。拒否するつもりはなかったんです。でも、三実さんのことが……少し怖かったというのは……あります」
「すまない」
「あの、私、三実さんの気持ちが全然わからなくて。にこにこ笑顔なのに本音を見せてくれないというか……でも突然表情が変わるし……どうして私をお嫁にもらってくださったのかもわからないし……」

この先も仲良くやっていくために今ここで話し合っておかなければならない。だけど、主張することが苦手な私の言葉は上手にまとまらない。

「……諭とのランチ、不愉快でしたか?」

あの晩、私を押し倒した三実さんの言葉を反芻すると、どう考えてもそこに行きつく。