兄の一久さんは線が細く柔和な雰囲気なのに対し、三実さんは肩幅が広くがっしりとした体形をしていた。はっきりとした野性味のある顔立ちは、端正で日本人離れしている。体型と相まって海外の俳優みたいに見える。

物静かで、ややうつむきがちな彼が、私との結婚を望んでいるようにはとても見えない。
『三実が見初めた』なんて一久さんは言っていたけれど、私は社長令嬢としてパーティーや会食に参加するような生活はしていない。つまり彼と出会い見初められるような機会はあり得ないのだ。

わかってはいたけれど、この結婚は政略結婚なのだ。甘屋に有利な家と血縁になるための。
だって、十二歳も年上の三実さんからしたら、十八歳の高校生なんて子どもにしか見えないに違いない。

そんなことを考えながら、ついまじまじと彼の顔を見つめてしまった。私の無遠慮な視線に気づいたのだろう。彼がスッと顔を上げた。

瞬間、ゆらりと空気が歪んだ気がした。視界が曲がったような感覚に、そのまま私は動けなくなる。
私を見据える燃えるような瞳に捉えられ、身動きがとれなくなったのだと気づいたのはその後。

獰猛な獣に遭遇したとしか思えない嫌な感触がした。
藪から相手が出てきた刹那、こちらはその静寂に気配を感じとれない。しかし、ひとたび目が合えば、時すでに遅し。捕食対象としてロックオンされてしまう。
そういう種類の本能の警告を感じた。

彼は、ゆっくりと微笑んだ。
獰猛な瞳を隠すことなく、ただ顔面に優しい仮初めの笑顔を貼りつけるのだ。
瞳が炎のようにぎらぎらとゆらめく。私を征服し食らい尽くそうとしている。
なぜ、初対面の男の人にこれほどまで根源的恐怖を感じるのかわからない。