「そうですね……なんでも食べられますが強いて言うなら和食が好きです」
「甘い物は?」
「好きです」
「どんなものが?」
「和菓子も洋菓子も好きです。プリンやかき氷も好きです。嫌いなものはないかもしれません」

三実さんは納得したように頷き、牛丼を食べ進める。
質問の趣旨がわからず不審に思うものの、私もお箸を握り直す。

三実さんはなぜ私を連れ出したのだろう。私には言いたいことが溜まっている。だけど、なんとなくまだ切り出せない。勇気が出ないというより、今日の三実さんの空気が普段と違うのだ。
食後に連れてこられたのは公園奧の動物園だった。

「動物が好きだと以前言っていたな」
「はい、好きです」
「動物園に入ってもいいか?」
「ええ、もちろん」

券売機でチケットを買う三実さんを眺めてようやく気付いた。
今日の三実さんは不機嫌でこそない様子だけど、あの貼りついたように無機的な笑顔がないのだ。そして、野獣のようにギラギラもしていない。
どちらかといえば、ぼうっとしているように見える。いったいどうしてしまったんだろう。

園内は家族連れが多く、にぎやかだ。パンダの前は混み合っているので後回しにし、順路通りに鳥類、ライオンなどの猛獣、ゴリラなどを見て歩く。
三実さんと並んで歩くことがほとんどなかったので、歩いてみて身長差や歩幅の差を感じた。彼がゆっくり歩いていても私には少し急ぎ足だ。

「本は読むか」
「ええ」
「作家は」
「最近の作家はあまり。古い小説ばかり繰り返し読んでいます」

三実さんは動物を見ながら、私に色々な質問をする。