土曜日、私たちは11時に上野駅で待ち合わせることとなった。
昨夜も戻らなかった彼は、どこで何をしていたのやら。いよいよ、外に愛人でもいるのかという気分になるけれど、これから話し合おうという関係で、先に疑念を抱くのはよくない。

上野駅という場所を指定してきたのは三実さんだ。てっきり車でどこかに行くのかと思っていたのでちょっと驚いた。
ノーカラーのブラウスにフレアースカートという初夏風のいでたちで待っていると、現れた三実さんは片手を上げて私に近づいてくる。
ジーンズにTシャツ姿だ。カジュアルなジャケットは暑いようで腕にかけている。こういう姿は初めて見る。

「待たせたか?」
「いえ」
「ところで腹が減っているんだ。少し早いが昼飯でもいいか?」

いきなり言われ面食らう。頷いた私を連れ、三実さんが向かったのは駅前の牛丼店だった。

「牛丼は食べたことがあるか?」
「え、ええ。デパートで事務をしていたときは、よくパートさんたちとお弁当を買いにいきました」
「そうか、幾子でも食べるんだな」

三実さんは私をどれほどのお嬢さんだと思っているか知らないけれど、私はほとんど庶民の感覚で生きてきた。金剛邸の規模の大きさと生活レベルに驚く程度には。

チェーンではない牛丼店は狭く長細い作りだった。人気店なようで、オープンと同時に客席が埋まる。バターと卵ののった牛丼は珍しくてとても美味しかった。

「うまいか?」
「はい」
「食べ物は何が好きだ」

続く質問に首をかしげる。三実さんは真顔だ。