古くから付き合いのある祇園の料亭で、金剛家との顔合わせは執り行われた。
こちらは私と父、あちらは三実さんと年の離れたご長男の一久さんが現れた。

『愛らしいお嬢さんですね。三実が見初めたという意味がわかります』
『甘やかして育ててしまいましたもので、三実さんの理想に適いますかどうか』

父に甘やかされた覚えはない。同居してからも必要最低限の会話しかしていないもの。そして三実さんが私を見初めたという点に引っかかりは覚えた。

『甘野社長、不肖の弟ですが、お嬢様をお任せいただきたくお願いいたします』

一久さんが言い、願ったりというように父が破顔した。

『金剛家の一員に相応しいかわかりませんが、是非にとお求めいただき、この子もこれほど幸せなことはないでしょう』

面倒くさい。そう思った。
勝手に幸せを決めないでほしいと思いつつ、強く拒否する意味もない。私がここでカリカリ怒り出して、このお話を破断にしても、どうせ数年うちに都合のいい処理の仕方で嫁にやられるか、婿をもらうのだ。
父の駒なのだ。早い段階から気付いていた。何をしても結果は同じ。

ただ、ひとつ。
私は目の前にいる男性と本当に結婚するのだろうか。

金剛三実は静かにそこに正座していた。
視線はテーブルに落ち、背筋を伸ばした座り姿勢は、武士のようだ。
しかし、凪いだ空気に違和感を覚える。