『君島のおじさんについてイタリアに渡る予定なの』
『え、本当?』

君島のおじさんは母が長くお付き合いをしている男性だ。私も何度も一緒に食事をしたことがある。おしゃれだけど落ち着いた男性で、海外の工芸品の輸入業を営んでいる。離婚すれば、ふたりはいつか一緒になるだろうとは思っていた。

『幾子、もし困ったらすぐに連絡しなさい』

母はいっそう声をひそめて言った。

『お母さんのところへいらっしゃい。君島のおじさんもそれでいいって言ってくれているから』

母は、端から私の結婚生活が上手くいかないと思っている様子だ。
母の心配はもっとも。だけど、私もここで甘えを見せるわけにはいかない。

『お母さん、大丈夫よ。私、いいお嫁さんになれるよう頑張る』
『幾子』
『きっと幸せになるわ。安心して』

母は最後まで心配そうな表情をしていた。


すべて終えると日も暮れた時刻になっていた。父は早々に場を辞し帰っていった。私には、『行儀よくしなさい』と子どもに言うような言葉だけかけて。

金剛家の新族も次々に帰って行き、三実さんのお父さんもお兄さんたち家族もそれぞれハイヤーで帰っていく。私は化粧を落とし、来るときに着ていたワンピース姿になると、手配されたハイヤーに乗り込んだ。