本殿に向かう花嫁行列の中、隣にいる三実さんを心強く思った。まだ二十歳の私が大きな一族の御曹司にお嫁入りだなんて不安だった。今も不安だ。
だけど、大丈夫。三実さんを支え、いい妻になろう。

神前で式を挙げる最中も、私は希望で不安を押しつぶす努力をした。大丈夫、きっと大丈夫に違いない。

挙式後、色打掛にお色直しをし、披露宴も執り行われた。金剛家は大きな一族だ。全員と挨拶を交わすのはひと苦労だった。三実さんが隣で、ひとりひとり紹介してくれる度、私は頭を下げ、末永くよろしくお願いいたしますと決まり口上を述べるのだ。

『幾子』

披露宴も終盤、母が私に声をかけてきた。三実さんはちょうど、長兄の一久さんと次兄の次郎さんとお話中だ。楽しそうに笑い合ってお酌をし合っているから、きっとこちらの話は聞こえないだろう。

『綺麗よ。こんなに早くお嫁に出すとは思わなかったけれど』
『お母さん、ありがとう』

京都に行ってからも、母は頻繁に私に会いに来てくれた。私も何度も会いに行っている。母が私を父に任せることに最後まで抵抗したことも知っている。

母は気が強く、おおざっぱで家事が苦手。祖父母とは喧嘩ばかりの人だけれど、私のことを大事に思っている。そんな母を私も大事に大事に思っているのだ。

『お母さんね、あなたの結婚が済んだら、お父さんと正式に離婚するわ』

結婚式の場で、いきなり不穏なことを言いだすのが母らしい。私もそうするだろうなとは思っていた。私の結婚まではと世間体を気にして籍を抜かなかっただけなのだ。