ひゅっと喉が鳴る。
そこには、金剛の一族がずらりと居並んでいたからだ。ざっと百人以上はいる。

左手奥に父と、久しぶりに会う母の姿を確認した。黒留袖姿の母は式に似つかわしくない渋い顔をしていた。母は私を不憫に思っているだろう。自分もまた見合いで政略結婚同然に結婚し、父とはうまくいかなった。私も同じ道を辿るのかと。

『やあ、綺麗だ』

緊張感のある空気を憚らず声を上げたのは中央にいた年嵩の男性だ。70代に差し掛かるだろうか。羽織袴姿で笑顔だけれど威厳のある風貌だ。
隣には一久さんとその奥様とおぼしき女性がいるから、この男性が三実さんのお父様、私の義父になる方なのだろう。

『お父さん、俺が先に言おうとしていたのに。お株を奪わないでくださいよ』

明るい声が私の横から聞こえた。
見れば、私のすぐ横に礼装の羽織袴姿の三実さんがいた。
ひと目見てどきりとするほど素敵だった。はっきりした顔立ち、浅黒い肌が、黒五つ紋付の羽織袴と妙によく合い、映画の主役みたいな光り方をしている。
三実さんは、私に向き直り爽やかな笑みを浮かべた。

『幾子さん、とても綺麗だ。こちらが照れてしまうくらいだよ』
『お熱い、お熱い』

金剛家のご年配の方々からからかうような声が飛ぶ。それに照れてみせる三実さんは、私よりずっと年上だけど、幼く無邪気だ。

『幾子さん、緊張するなあ。頑張ろう』

こそっと耳打ちしてくる様も、清々しいほど優しく、私はすっかり婚約の挨拶の時の彼を忘れた。
やはり、私の勘違いだったのだ。
彼は爽やかで優しい人。きっと私は、彼と素敵な家庭を築ける。