するとやはり、皇くんはよりいっそう核心に踏み込んできた。

「んで、戻ってきた桃の顔が赤かった。あんた、あいつになにかされたのか」
「な、なにもされてないよ」

 追及の眼差しから慌てて目をそらした時、不意に壁一枚を隔てた隣のテーブルが急に騒がしくなったことに気づいた。

「いや~、今日はお疲れさまでした!」
「校長のスピーチ、じんときちゃいました」

 嫌な予感に、そーっと壁の影から隣のテーブルの様子を窺うと、やはり見たことのある教師陣がテーブルを囲んでいた。どうやら今到着したところらしい。
 まさかよりにもよって、先生たちの打ち上げが隣のテーブルで行われるとは。

「ちっ。隣がセンコーかよ。しらけるわ」

 上下に頭を並べて一緒に隣を覗き込んだ皇くんが悪態をつき、自分の場所に戻ってつまらなそうにコーラをぐびぐび仰ぐ。

 けれどわたしの関心の先は、もちろんひとつだった。

「綾木先生、お疲れさまでした! 今日もウーロン茶でいいですか?」
「ああ、はい」
「お酒が弱いなんて可愛らしいですよね」

 例によってがっちり隣をキープした松尾先生が、先生にウーロン茶を注いでいる。上目遣いで先生を見上げる松尾先生。相変わらず距離が近いことにハラハラしてしまう。