先生の言葉によって記憶の糸が解けた瞬間、いつの間にかどこかにぽっかり置いてきてしまった過去が、波の渦ように脳裏に押し寄せてきた。

「……う、そ……」

 いじめられていたこと、自ら死んだこと。よみがえったあの日の記憶に、絶句した。
 なんでこんな大切なことを忘れていたのだろう。そうだとしたら、先生は――。

「悲しいけど自殺だったんでしょう? じゃあ、悪いのは綾木先生じゃなくないですか!」

 松尾先生の悲痛な声に、意識が現在へと引き戻される。
 すると先生は自嘲気味に、そして投げやりに答えた。

「俺が殺したんですよ。俺は一瞬だって、あいつの笑顔を疑わなかったんですから。最後に電話をかけたきた時、あいつはどんな想いだったか……。あの時異変に気づいてたった一言気持ちを伝えてやれていたら、あいつは今でも笑っていたのかもしれないのに」

 まるであの日の自分を憎むような先生の口調に、自分の心臓が砕け散ったかのような錯覚に陥った。