……あれ、わたし、なんのために生きているんだっけ。ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
 気づけばおばあちゃんがいなくなって、ひとりぼっち。学校にも家にも居場所はない。それならばもういっそなにもかも捨ててしまった方が楽かもしれない。

 わたしが死んだことを知ったら、綾木くんはどう思うだろうか。
 悲しいけど、彼に愛してもらえず、ずっと一方通行の恋だった。綾木くんはきっとすぐにわたしのことなんて忘れるのだろう。でもそのくらいでいてくれた方が、彼が泣かないで済むのだからよかったのかもしれない。

 まるでそこに救いを求めるかのようにふらふらとした足取りで川の音が激しい方に導かれ、欄干に片足をかける。10メートル以上下に広がるのは、ごうごうと音をたてて流れる凶暴な川だ。
 普段なら身が竦む高さなのに、大雨の影響で水かさと勢いの増した濁流を見ても、不思議と恐怖はなかった。まるで心というものがぽっかり体内から抜け落ちたように、消えたい、とそれ以外なにも考えられなくなって、手すりの向こう側に立った。

 雨に濡れて体はとても冷えている。
 おばあちゃん、そっちは暖かいですか。

『暖かい場所だといいな……』

 それから自分の体を少しでも軽くするみたいに小さく息を吐くと、まるで少しの段差から飛び降りるみたいに――躊躇うことなく一気に橋の下へ身を投げた。

 重力に抗うことなく落下している最中、雨と風の音の狭間で、様々な思い出が頭を巡る。ああ、気づけばわたしの隣にはいつも綾木くんがいた。
 これがいわゆる走馬灯というやつなのかもしれないと、頭のどこかで悟った。

 わたしはそっと、雨を降らす真っ暗な空に向かって手を伸ばした。

 どのくらいの間、落ちていたのだろう。

 そして、わたしは死んだ。