すると先生は、数秒の空白ののち静かに答えた。

「お気持ちは嬉しいですが、すみません。お付き合いはできません」

 どっどっどっと暴れる自分の心臓の音が、まわりの音をもかき消す。

 すると告白が実らなかったことは想定していなかったのか、松尾先生がそれまで乱すことのなかった声をわずかに震わせた。

「なんでですか……。元カノさんのことが忘れられないからですか。聞きました、元カノさんが忘れられないって」

 答えはない。それはつまり肯定を意味していた。その返事を受け取り、松尾先生は納得ならないというように取り乱す。

「どうしてそんなにこだわるんですか? 学生時代の話なんでしょ? いい加減吹っ切って新しい恋をすればいいじゃないですか」

 松尾先生の言葉に、それまで感情の起伏を見せなかった先生が、初めて冷笑を含んだ嫌悪感の滲む声で言い返す。

「吹っ切れって……。なにも知らない松尾先生に言われたくありません」
「じゃあ、理由があるんですか? このままじゃ納得できません」