「デスクは俺の隣。このパソコンはIDを読み取らないと開けないから。作業内容は全部俺のパソコンと同期してあるから見れるようになってる。わかってると思うけどデータは持ち帰り禁止。作業時間内に作業を終えて帰るのが俺のポリシーだから。時間内に終わるようにして。」
「はい」
「今日はこれから外回り。午前で8軒、午後は10軒に薬品を届ける。で、戻ってからデータ入力して5時半には帰る。今日は新規はないから余裕だな。」
早口に説明する心平先輩について行くのが必死で、ほかのことを考える余裕すらなかった。
「行くぞ」
「はいっ!」
やっと余裕ができて先輩の後ろを歩きながらちらりと先輩を見る。

背が高い。スーツが似合いすぎる。細身でなかなか着こなすのが難しそうなデザインのスーツ。
髪はしっかりとセットされている。
『ドンッ』先輩に見入っていると急に先輩が立ち止まり私は先輩の体にぶつかった。
「ちゃんと前見ろ。」
「すみません。」
ぶつけた鼻の頭をさすりながら先輩に謝ると先輩はそんな私は気にせず壁にあるボードの自分の名前の横の札を裏返した。『外』と『中』という札と横には『出』と『欠』という札。
先輩は『外』と札を返した。