聞いているひとは何人くらいいるんだろうと思いながらチョークを持って黒板に字を書いていく。


コツコツとチョークが黒板にぶつかる音だけが響く。


喪失感、寂寥感が今の俺を支配している。



授業なんてほんとうはやりたくないくらい胸が苦しい。


うしろの席がひとつ歩いているだけなのにどうしてこんなにも胸がしめつけられるのか。



見ないようにしても自然に目に入ってくる。

気持ちをすべて呑み込んで授業を進める。




▷ ▷ ▷


放課後屋上に行く習慣はまだぬけない。


勝手に足が動くわけないから自分の意思。


となりで笑うきみはもういないのに。

ぽっかりと空いてしまった穴を埋めたいと思えば思うほど傷をえぐられる。



『私、先生の笑った顔が好きなの。ずっと笑っていてね』


ずっとどころか、一瞬も笑えない。


切なげに空を見上げるきみが美咲と重なったから声をかけた。始まりはそんなものだった。