1限が始まる前だけでも静かなところにいようと思い、図書館に入ると先客がいた。



「……なんで」



出した声は掠れていてあまりにみっともなかった。



そいつはいつも通りゆったりと歩いてきた。



わたしの目の前で止まり、手を伸ばしてきた。



「触られるの、嫌いだろうけど」



そう言いながら、おでこに手を当てた。



ひんやりとして気持ちいい。



「熱あるでしょ。帰ろう。

これも欠席のうちに入らないから」



「……いい。帰らない」



「帰らないと風邪が酷くなる」



「いいよ、酷くなれば」



言ってからまずかったと反省した。



これじゃあ家まで送れって言っているようなものだ。



「強情だな、斉藤さん。

送るから大人しく休むんだよ」



「……誰も、そんなこと頼んでな」



最後まで言う前に口を塞がれた。



あまりに突然のことで抵抗する暇もなかった。



「帰らないと悪くなるよ」