「斉藤さん、来たよ」
「座れば」
これが日常になるなんて、少し前のわたしは想像出来ないだろう。
今でもこいつの態度にイライラするのは変わらないけれど、前よりは愛想良く接することが出来ているんじゃないだろうか。
「そういえば今日は俺、弁当ないんだよね。
この前の約束通り奢ってよ。
ついでに今お金ないからさー」
そんな約束をしたこともすっかり忘れていた。
しかもわざわざパンに齧り付く寸前に言うことでもないだろう。
キッと睨みつけるとにたにたと笑っていた。
「……何がいいの?」
鞄から財布を取り出してしまうわたしも大概だと思う。
「カレーパンとジャムのコッペパンと……、あとドーナツ2つ。
ドーナツの味はなんでもいいや」
「無かったら?」
「無ければなんでもいいから買ってきて」
「分かった」
ドアを開ける時は必ず周りに誰もいないかどうかに注意する。
「誰もいないだろ」
「いたらどうすんの、わたしが困る!
これ以上うるさいこと言うなら追い出すから」