不意に、手を掴まれた。
同時にするりと隙間から体を入れられた。
「な……にすんだよ、放せ!」
「口悪過ぎでしょ、斉藤さん。
もっとおしとやかにしないと」
「うっさいなあ!
じゃあ手放してよ!
やめてよ!」
手をどんなに振ってもびくともしない。
こいつ、こんなに強いんだ。
男だし、当たり前といえば当たり前なんだけど、妙に悔しい。
「やめてよ!放せ!」
手を引くどころか逆に引っ張られてしまい、顔がぐっと近づいた。
顔を背けようにも、これだけの至近距離だと嫌でも目に入る。
「離して」
「斉藤さん、俺は青木陽介なんだけど」
「だから何?」
「名前呼んでよ」
「は?」
「名前呼んでくれたら出て行ってあげる」
「青木陽介」
「ま、いいか。
斉藤さんが望むようにしてあげる」
そう言って、わたしを解放して出て行った。
「……なんだよ、何しに来たんだよ」