駅に向かって歩いていると、後ろから呼びかけられた。
たぶん、気のせいだと思う。
今の時間はこの学校の人がたくさん駅に向かって歩いている。
それに、斉藤なんてありふれた苗字の人は他にもいるはずだ。
「斉藤さん」
「……」
「ねえ、斉藤さん」
肩を叩かれた。
振り向くと、屋上にいたやつだった。
「途中まで帰らない?
あ、暇なら近くの喫茶店入ろう。
まっすぐ家に帰るんでしょ?」
わたしの返事なんて聞かずに勝手に手を掴んで進んでいく。
なんだよ、こいつ。
思いっきり手を振りほどくと、びっくりした様子でわたしを見ている。
わたしの方が驚いているんだけど。
いきなり喫茶店に拉致しようとするなんて。
「どうしたの?」
帰る、という意思表示でわたしは駅までダッシュで戻った。
あの気遣いに欠ける振る舞いが、嫌いだ。