部屋にカバンと制服を置いて、普通の私服に着替えて、戻ってきたリビング。
ダイニングテーブルには二人分の朝ごはんが用意してあるから、きっともうお父さんは朝食を取り終えているのだろう。
今日は夏休みでしかも土曜日だけど、お父さんはいつもと変わらず出勤だ。
席について朝食を目の前に、両手を合わせる。
それから一瞬辺りを見渡すと、スマホの充電器が視界に入った。
「.....あれ、そういえばスマホ」
あると思っていたその場所に、私のスマートフォンはいない。
他の場所も見回してみるけれど、どこにもなかった。
「お母さん、私のスマホ知らない?」
キッチンから出てきて私の目の前の席に座ろうとしていたお母さんに、聞いてみる。
お母さんはえ、と焦った声を出して、それから困ったようにお父さんに目を向けた。
.....なに、どうしたんだろう。
「.....ほら、正直に言いなさい」
お父さんも困ったように視線を揺らしたけれど、それも一瞬、すぐにお母さんに声をかける。
お母さんはぴたりと動きを止めて、口元に右手を当てて考えるような仕草をした。
そのまま数秒、目を伏せる。
「.....実は昨日、心結のスマホを思いっきり落としちゃって」
衝撃的すぎる事実が、お母さんの口から紡ぎ出された。
「え」
これにはさすがに驚いて、反応が遅れる。
お母さんはちらりと私を見て、それから、ごめんね、と呟いた。
「夏休み明けまで、修理に出すことにしちゃった.....」