彼が絶品だと言ったオムライスは、
全く味がしなかった。


他愛のない話に、適切な言葉を返しながら
頭の中では、彼を殺す計画を立てていた。

屋外で殺すのは、逃げられて
未遂に終わる可能性がある。

ホテルに連れ込み、殺すことに決めた。


それからは、会話を楽しんだ。


彼の表情ひとつひとつを、
目に焼きつけながら。

そして、彼がくれた言葉。
思い出に浸りながら。


既に食べ終えた彼は、最後のひとくちを
口に運ぼうとする私を愛おしそうに
見つめている。

歯に何か詰まっていないだろうか…

そんなことを気にしながら、
今までで1番の笑顔を彼に向けた。


最後のひとくちも味がしなかった。

無理やり、お冷やで流し込む。


「そろそろ行きましょうか」


伝票を手に立ち上がった、彼の背中を追う。


包丁が入ったバッグを肩にかけて、
両手で取っ手をぎゅっと握りしめた。