「黙れ！！！」


男性の怒鳴り声と同時に、左頬に強い
衝撃が走り、両手首を強く掴まれた。


その豹変ぶりに震えが止まらず、
身動きが取れなかった。

怒りで血走った目には、怯えた表情の
私が映っていた。

叩かれた頬と、掴まれている両手が
ズキズキと痛む。


「……離してください」

「…私はTOHDOの社長だよ。
　信じてくれよ」


ゆっくりと首を横に振ると、
再び左頬に強い衝撃が走り
地面へ押し倒された。


「お前もあいつと同じだ！！！」

そう繰り返し叫びながら、何度も
私の顔を殴った。

抵抗しない私に更に苛立ったのか、
奇声を発しながら私の全身を何度も蹴った。


どれくらいの時間、
暴行されていたのだろう。

いつのまにか男性は立ち去り、
私の身体は雨に叩きつけられていた。


目を開けると恐ろしいほど
真っ暗な空が広がっていた。

その闇は私を包み込み、このまま
どこかへ連れて行きそうだ。

まだ私はこの世界にいたい。
いなければならない。

どうしてだろう。
こんな時にあの人の顔が浮かぶ。
どうしようもなく憎くて、
愛しいあの人の顔が。


「茉莉花さん」


目の前に浮かぶ彼の顔に、
手を伸ばし触れる。

私の名前を呼ぶ声と、触れた頬の
温かい感触が妙にリアルだった。


絶え間なく降り注ぐ雨で、
切れた唇が染みる。

汚れている傷だらけの私の体を、
彼は優しく抱き締めた。


温かい。
ふっと涙が溢れ出し止まらない。

涙はすぐに雨の一部となり、
冷たくなって頬を伝う。

それでもずっと、私の身体は
温もりに包まれていた。