外は雨は止んでいたけれど、
またすぐにでも雨が降り出しそうな
空だった。

所々にまだ小さな水溜まりが残る道を、
私達は並んで歩いた。


「…君、TOHDOって会社知ってる?」

突然の質問に、思わず驚き身構えてしまう。

「…はい」

「…私、その会社の社長、
 藤堂万咲都なんだ」

「…えっ?」

いきなりどうしたのだろう。
冗談でも言って私をからかって
いるのだろうか?


「驚くのも無理はない。
 こんな身なりで出歩く社長は
 いないからね」

男性は髪をいじる仕草を見せると苦笑した。


「会社でも部下たちによく怒られるんだ。
 きちんとした服装で来るようにって」

冗談とは思えない口振りに恐怖を覚えた。


「…あの、冗談ですよね?」


「信じてもらえないかもしれないけど、
 私がTOHDOの社長だよ。
 君は社長を見るのが初めてなんだろう?」


「…いえ、以前お見かけしたことが
 あります」

来店時より、少し緩んだように見えた
顔から表情が消えた。


「TOHDOの社長ではありませんよね?
 ……あなたは、誰なんですか?」