カランッ


カフェの扉に吊り下げられたガラスの
装飾品が、少し大きな音を立てて揺れる。

店内のゆったりとした空気が、
一瞬にして冷たい空気に変わった
気がした。


「いらっしゃいませ」


顔を上げると、一人の男性が扉の前で
じいっとこっちを見ていた。


白の半袖のシャツに黒のスラックス、
黒い革靴には少し泥がついていた。

肩につくくらいの黒髪は後ろで
束ねられていて、中途半端に伸びた
前髪の隙間から私を見つめる目は、
獲物を見つけたライオンのようだった。

片方の目にかかった濡れた前髪から
雫が、薄く法令線が刻まれた口元を
流れて顎を伝い、静に床で音を立てた。


「あの…」


「コーヒーひとつ」


声をかけると、男性は瞬きひとつせず
私をじいっと見つめながら答えた。


「かしこまりました」


血色の悪い唇から落とすように
溢れた言葉を拾うように私は返事をした。