彼の後ろ姿が住宅街へと消えて行く
姿を見ながら思う。
後ろ姿を愛おしく思うことは
ないのだろうと。
ここで名前を呼びまた言葉を交わしたり、
振り返ってくれないだろうかと
思いながら背中を見送るのだろう。
普通に恋人に抱く感情を持つ事が
できないことに寂しさを感じた。
でもそんなものは私には必要ない。
気づいたら彼の姿はもう消えていた。
普段見慣れた何も感じない昼間の風景も
夜は全てが不気味に、
意味があるように思えてくる。
ふと空を見上げると星空が
広がっていた。
「お母さん。やっと始められるよ」
私は一番光る星に向かってそう呟いた。