この傘を返してしまっても
恋人同士である以上
また会うことはできる。
そのような関係になれたことも
とても幸運なことだった。
玄関の扉に手をかけてゆっくりと開ける。
扉の音が復讐の始まりを告げるように
静かな夜の街に鳴り響く。
目の前の人間が自分の命を
狙っているとは知らずに
穏やかな笑みを浮かべる彼。
やっと始まった復讐に
嬉しさを抑え切れずに
思わず口角が上がってしまう私。
「傘、ありがとうございました。
やっと返すことができました」
「僕達が出会えたのはこの傘の
お陰ですよね。
これからも大事に使おう」
この傘が持つ意味はお互いにとって
違うものになる。
彼は傘を大事そうに持つと続けた。
「では、そろそろ帰りますね。
今日はありがとうございました。
おやすみなさい」
「こちらこそ、ありがとう
ございました。おやすみなさい」
誰かとおやすみの言葉を交わしたのも
久し振りのことで、胸がむずむずした。