一度も染めたことがないであろう、綺麗な黒髪に、低い背丈。
華奢な体は足を動かし、僕を振り返った。
っ!!
真っ黒でぱっちりとした綺麗な瞳。
小さい鼻、薄いピンク色の唇、白い肌。
その女子生徒は、止まることなくこちらへ歩いてきた。
「皆、そんなに質問攻めしてたら篠山くんが可哀想だよ」
可愛らしい声で、その女子生徒は言った。
だが、なぜだろう。
なぜ、その女子生徒を軽蔑するような視線をクラスメイトは送っているのか。
「なんだよ学級委員長。皆が仲良くしようとしてんだから良いだろ。篠山も別に嫌がってねーし」
「表情だけじゃわからないよ?それに、篠山くんは皆の名前もわからないだろうから、まず自己紹介してあげた方が良いんじゃない?」
「うるせーよ化け物!!」
化け物?
この女子生徒からは人間の匂いがする。
化け物ではなさそうだけど。なにかに例えているのかな。
女子生徒の名札には、『箕田』と書かれていた。
箕田学級委員長、ね。
「篠山くん、あとで話があるんだけどいいかな?」
箕田が僕にそう言い、僕は笑顔を浮かべる。
もしかすると、この子……。
「うん、いいよ」
「ありがとう。そろそろチャイムなると思うし、皆席に着いてね」
箕田はそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。
「なにあいつ。うざっ」
「学級委員長だからって、調子のんなっつーの」
僕の席の周りにいた人間が、口々に箕田の悪口を言い出す。
僕の予想だと、彼女は管理者。
そして、既に僕の正体にも気づいている。
ただの予想だし、確定ってわけでも…。
いや、確定かな。
人間は単純な生き物。
色んな感情を抱くし、平気でべらべらと嘘もつく。
なんだかんだ、面倒なものなのかも。
チリン。
ポケットに入れておいた心鈴が音を鳴らす。
「お前ら早く席につけー。お!転校生の篠山悠衣か。よろしくな!理科担当の勝島だー!」
「宜しくお願いします。」
いつか、条件を全て尽くして父さんに認めてもらえるかも。
って…簡単にいくわけないか。
列順に配られていくプリント。
後ろの席へ渡すために振り返った箕田と目線が合う。
僕はその瞳に、優しく微笑んだ。
END