会場を出てからも、桜都は男の子のことが
忘れられなかった。

むしろ、より興味が湧いた。

それからというもの、
何度も数分前の出来事を思い出してしまい、
まだドキドキした心を抑えることが
出来ずにいた。

「いやぁー、すごかったね。
さすが清宮さんの息子さんだ。」

何気ない父の言葉に、桜都は衝撃が走った。

つまり、さっきの男の子は今日ここに来た
本来の目的である清宮さんの息子さんだった
ということだ。

その瞬間、桜都は飛び跳ねる気持ちで、

「名前は?!名前はなんて言うの?」

と、とっさに聞いた。
胸が高鳴る桜都とは対照に、
父は落ち着いて答えた。

「えーと、たしか時雨君。
時の雨って書いて時雨。」


〝時雨〟。


その名前に桜都は何故だか違和感を持った。

まるで、ずっと前から知っていた
名前のような気がして。

そして、

なんの根拠もないけれど桜都は、
また時雨に会える、

そんな気がした。